【刀剣紹介】豊後正宗
豊後正宗
『享保名物帳』所載、相州正宗極めの短刀です。もと多賀豊後守高忠が所持していました。その後の伝来は不明ですが、大阪城にあったころ、本阿弥光徳が押形をとっています。『享保名物帳』編集のころは、相州小田原城主・大久保加賀守忠方の所蔵でした。以後、同家に伝来、昭和六年九月、同家の売立に出され、二千六百六十円で落札されました。そして、三井高公男爵家に引き取られ、同十年、重要美術品に指定されました。戦後の二十三年五月、神奈川県大磯の三井家別荘にあったものが何者かに盗まれました。三十四年アメリカサンフランシスコ在住の方が所持していることがわかり、三井家で買い戻しました。
刃長八寸(約二四・二センチ)で平造り、真の棟。身の中程の棟に昔は切込みがあって、相手の刃鉄が残っていた。現在もかすかにその痕が残っている。地鉄は板目肌、地沸えつく。刃文はもと刃幅狭く、中程より上は大乱れとなり、沸え崩れ砂流しまじる。鋩子は乱れ込んで丸く、特に差し表は掃きかける。中心はうぶで振り袖形となる。目釘孔は四個。ただし三個は埋める。銘はない。
参考文献:日本刀大百科事典
写真:刀剣名物帳「豊後正宗」