日本刀の世界 ~日本の様式美~

日本の伝統文化である日本刀の刀工・刀鍛冶、名刀、刀剣書籍など

【刀剣紹介】飛竜丸

飛竜丸

刀の異名です。京都の商人・瀬尾家伝来です。同家はもと土佐の住人で、長曽我部氏より拝領の飛竜丸という、伯耆安綱の太刀が伝来していました。明治初年、当主が道楽者で、飛竜丸も売り飛ばして、酒色に換えることを恐れたその母の未亡人は、時の京都府権知事の岩下方平(のちの子爵)が、亡夫と親交があったので、飛竜丸を岩下に預かってもらいました。

未亡人はそれから十年後、道楽息子は日清戦争で戦死したので、その妹の子が瀬尾家を継いで、当主になりました。その当主が岩下家に飛竜丸の返還を求めました。方平は明治三十三年にすでに死去していたが、もと家扶をしていた老人の話では、方平が死去後、樺山資紀大将に買い取ってもらったといいます。樺山大将に訊いたところ、東郷平八郎大将が日露戦争で大功をたてたので、それを祝して贈ったといいます。東郷大将に礼したところ、同姓の者にくれてしまった後でした。瀬尾家ではそれっきり、行方探しをあきらめました。

しかし、東郷大将と同姓の海軍中将・東郷吉太郎の手記によれば、東郷大将が樺山大将より贈られ、さらに吉太郎中将にくれたのは備中青江守次、二尺七寸(約八一・八センチ)ぐらいの大太刀で、切り込みの痕が二か所もありました。なお、訪ねてきたのは養子でなくて、年老いた未亡人で、その人の話では、そんな大太刀ではなかったといいます。すると、岩下に預けた飛竜丸ではなかったことになります。

参考文献:日本刀大百科事典